hiroto-o's diary

とある大学の大学院博士課程を何とか卒業して、とある金融の仕事をロンドンでしています! リンクはご自由に♪ メールはhiroto_o20[at_mark] hotmail.comまで。([at_mark]は@に置き換えてね)

利己的な遺伝子

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

今年の始めに買ってようやく先月に読み終わった本である。なかなかの怠け者なので普段生活しているときは殆ど本は読まない。出張での乗り物の中で沢山読むことが多い。

この本は以前とあるブログで紹介されていて(何故だか分からんが、その紹介ページは削除されていた)、そのタイトルからとても興味を惹かれていたのだけれど、遂に読みきった!! さらっと斜め読みして分かる内容でもない本で且つ600ページ近くの分量は、読む方も然ることながら書く方も大変だったと思う。

この本の目的を一言でまとめてしまえば、「親子愛、恨みつらみ、浮気などの身近な人間関係から、人種差別など地球規模の問題まで、全てを遺伝子の所為にして説明してしまおう」という大胆な内容。大胆すぎて一見するとクレイジーだけれど、それでも読んでみたいと思った。本の内容であるが、最初はとっても一般的なことから始まる。どういう脈絡で出てきたのか知らないけど、光路に関するファラデーの原理とかも出てきて、物理をやっている人間としてはニンマリする。この本は、単なる生物屋の生物屋による生物屋の為の本ではない。その証拠に数式は一切使われていない。

さて、生物とは何か?という問題から本題に突入する。同種の分子は集まりやすいから、様々な分子の混在する世界においては、分子の生存競争のようなものが起きる。同種の分子が集まりやすい理由は、化学的な相互作用(クーロン相互作用・疎水相互作用とか)あるいはエントロピーによるものなのだろう。こうして勝ち残った分子がDNA。分子の生存競争において、他の分子を取り込むことが出来れば生存に有利だ。逆に、他の分子から取り込まれないように防御する構造があったほうが生存には有利。また、自分のDNAを複製しておいた方が生存には有利。こうして、DNAを防御する構造として細胞が生まれ、自分のコピーを沢山作る意味で多細胞生物が誕生した。つまり、生物はDNAを守る"入れ物"に過ぎない。

ドーキンスが再三強調しているのは、こうした進化は、DNA自身が意図しているのではなく、幾つかのDNA達の中から自然淘汰によって選ばれた結果であるという点である。従って、DNAは"結果"として強くなるように進化しているように"見える"。

ここまでが最初の部分の内容。この辺が一番難解だった。その後は比較的簡単で各論的なものが続く。

さて、生き残る生物は、自らのDNAをより上手く残すように行動するものに限られる。つまり、同種の個体への利他主義は遺伝子的に言えば利己主義である。こうして、親子愛の理由が与えられる。
・・・といった具合に説明されていく。因みに、何故近親相姦がタブーなのかという理由も見事に説明されている。

こういう風に遺伝子の生存プログラムの影響は広範囲に至るけれども、特に人間の場合には他に学習や文化といった別の要素によっても支配される、と注意がされている。

この他にも、他種の遺伝子とどのようにして共存しているのかをゲーム理論的に説明したりと、本当に内容盛り沢山である。また、自己複製子としてはDNAの他に人間社会における文化も存在するなど、その応用範囲は生物学だけでなく社会科学にも及んでいると思う。かなりオススメの本。